投資の世界には数え切れないほどの格言がありますが、その中でもインパクトが強いのが、「恐怖で買って、強欲で売れ」です。
多くの投資初心者は相場の熱気に流されて高値で買い、下落時の恐怖によって安値で手放してしまいがちです。
このような市場心理を利用して、市場に恐怖が広まっている時の安値で株を買い、市場が株の先高観に慢心している高値の時に株を売るのが、恐怖で買って強欲で売るトレード手法です。
人間の恐怖心は過去も未来も変わらず存在するため、心理的な恐怖心を利用したトレードは将来にわたって効果的です。
恐怖で買って強欲で売る手法とは?
恐怖で買う
- 市場参加者が不安・恐怖で投げ売りしている場面で買い向かう。
- 暴落時、極端に売られた銘柄を拾う。
強欲で売る
- 相場が過熱し、誰もが「まだ上がる」と強欲に買い漁っている場面で利確する。
- 株価が高騰してニュースで大々的に取り上げられ、SNSで「絶対買い!」と盛り上がっている時に売る。
このように、市場心理を逆手に取る逆張り戦略です。
恐怖で買って強欲で売る手法の特徴
恐怖心を利用した、恐怖で買って強欲で売るトレード手法には過去のデータに裏付けされた明らかな効果があります。(この記事の後半でデータを説明します)
市場で恐怖心が高まるほど、その効果は大きくなります。
長期でも短期でも、狼狽売りによる下げが底を打つのは買い手が一気に入ってくるからではなく、最後の売り手が売ってこれ以上誰も売らなくなった時です。つまり、市場で恐怖心がピークになった時です。
プロであれ素人であれ、損をするのは苦痛で、耐えきれなくなった人から株を売ります。失うことに対する恐怖は人間の本能に組み込まれた非常に強い感情で、誰も逃れることはできません。
買い手はこの恐怖心を利用してトレードで利益を得ます。買い手は自分が買う時に、反対側の売る人が狼狽売りをしていることや、苦痛に耐えられなくて売っていることを確信できた場合に買うのがベストです。
普通は暴落局面で買い向かうのは本能的に困難を伴うため、自分は買うのが怖いと感じた場合、売り手は狼狽売りをしていると考えられます。

強気相場の場合
「恐怖で買って強欲で売る」トレードは特に効果的です。強気相場では恐怖が高まった後は反騰することが多いためです。
弱気相場の場合
恐怖が高まってもそれはもっともだと受け止められるため、強気相場ほどの反騰がなく、得られる利益は小さくなります。
恐怖で買って強欲で売る手法のメリット
- 人間の恐怖心は過去も未来も変わらず存在します。そのため、心理的な恐怖心を利用したトレードは過去も有効でしたし、将来にわたっても効果的です。
- この手法は過去のデータに裏打ちされた明らかな効果があります。(この記事の後半でデータを説明します)
- シンプルで初心者にも理解しやすいルールです。
恐怖で買って強欲で売る手法のデメリット
- 市場の恐怖心のピークを見極めるのが難しい。つまり、間違ったタイミングで買うと、さらに下がるリスクがあります。
- 市場の強欲のピークで売るのも容易ではありません。
- 恐怖で買って強欲で売ることは心理的に抵抗がある投資行動で、実際に行うのは難しいです。多くの人ができないからこそ、実行できた人は利益を得ることができます。
- 恐怖心が広まっていなければトレードできないため、トレードできるタイミングが限られています。運用資金の80%以上はほかの投資手法で運用し、恐怖で買って強欲で売る手法は投資資金の20%程度を上限にするとよいでしょう。そうしないと全体的な運用成績が低くなります。
恐怖で買って強欲で売る手法の具体的な方法
これから紹介するRSIパワーゾーン戦略とTPS戦略は、「恐怖で買って、強欲で売る」という書籍を参考にしています。著者はアメリカ市場で実施しているためSPYというアメリカS&P500を指標としたETFで説明していますが、私たちは日本の日経225を指標としたETFで同様に実施することができます。
RSIパワーゾーン戦略
RSIパワーゾーン戦略は、1993年以降、エントリー数の91%以上でSPY(S&P500ETF)の値動き方向を正しく予測していた戦略です。
この戦略ではRSIを恐怖心の指標として利用し、市場に恐怖が広がるときに買い、恐怖が収まった頃に売ります。SPYの場合、3~7日保有するスイングトレードになることが多いです。
トレードルール①
- 前提:SPY(S&P500ETF)は200日移動平均線を上回っている(=上昇トレンドである)※SPYが大引けで200日移動平均線を下回っている時は、どんな場合でも新たに買わない
- SPYの4日間RSIが30を下回って引ける日の大引けにSPYを50%買う(=恐怖が広がったとき)
- SPYの4日間RSIが25を下回って引ける日の大引けにSPYを50%買う(=さらに恐怖が広がったとき)
- SPYの4日間RSIが55を上回った日に持っているポジションをすべて売る
1993~2017(24年間)のバックデータ
- トレード数:202
- 勝率:90.59%
- 1トレード当たり利益率:1.73%
- 平均保有日数:4.95日
トレードルール②
- 前提:SPY(S&P500ETF)は200日移動平均線を上回っている(=上昇トレンドである)※SPYが大引けで200日移動平均線を下回っている時は、どんな場合でも新たに買わない
- SPYの4日間RSIが25を下回って引ける日の大引けにSPYを50%買う(=恐怖が広がったとき)
- SPYの4日間RSIが20を下回って引ける日の大引けにSPYを50%買う(=さらに恐怖が広がったとき)
- SPYの4日間RSIが55を上回った日に持っているポジションをすべて売る
1993~2017(24年間)のバックデータ
- トレード数:147
- 勝率:92.52%
- 1トレード当たり利益率:1.89%
- 平均保有日数:4.84日
このRSIパワーゾーン戦略はSPYだけでなく、日本を含む世界中のETFで幅広く通用します。人間の恐怖心は世界共通なためです。
通常、特定のトレード法則は一般に普及すると通用しなくなります。例えば、株主優待を発表した東証二部上場企業の株を買い、東証一部に昇格して株価が上がったときに売るという手法がありました。しかし、この手法は雑誌に特集されたりして一般に普及した後は通用しにくくなりました。
一方でRSIパワーゾーン戦略は、人間の本能的な心理に基づいているため、一般に知られたとしても時代が変わっても通用します。たとえ知っていたとしても、人間の本能として暴落しているタイミングで株を買うことは怖くて難しいためです。
ほぼすべての急落には理由があります。その理由が人々にとって大きな意味を持っているほどRSIパワーゾーン戦略にとって都合がいいです。有名な会社やアナリストが恐怖をあおるコメントを出すとさらに都合がいいです。
RSIパワーゾーン戦略はテクニカル指標をもとにしているのではなく、人間の恐怖心理に通じるオシレーター指標のRSIをもとにしています。
特に長期の強気相場では、恐怖が収まるとほとんどの場合で再び買いの勢いが強まります。
TPS戦略
- T:タイム(時間)
- P:プライス(価格)
- S:スケールイン(分割での買い下がり、買い上がり)
TPS戦略では市場で恐怖が高まるにつれて買い下がり、恐怖が収まるときに手仕舞います。そして強欲が増すにつれて売り上がり、強欲が恐怖に戻るときに手仕舞います。いわゆるナンピン買いを実施する前提の戦略です。しかもナンピン買いをするたびに買う金額を上げていきます。
トレードルール
- 前提:SPY(S&P500ETF)は200日移動平均線を上回っている(=上昇トレンドである)※SPYが大引けで200日移動平均線を下回っている時は、どんな場合でも新たに買わない
- SPYの2週間RSIが2日連続で25を下回って引ける日の大引けにSPYを10%買う
- 大引けでSPYが前の仕掛け値よりも下がっていれば、さらにSPYを20%買う
- 大引けでSPYが前の仕掛け値よりも下がっていれば、さらにSPYを30%買う
- 大引けでSPYが前の仕掛け値よりも下がっていれば、さらにSPYを40%買う
- SPYの2週間RSI が70を上回って引けた日に持っているポジションをすべて売る
1993~2017(24年間)のバックデータ
- トレード数:211
- 勝率:94.79%
- 1トレード当たり利益率:1.21%
- 平均保有日数:3.59日
このTPS戦略も、SPYだけでなく、日本を含む世界中のETFで幅広く通用します。
200日移動平均線を上回っている状態で、2週間RSIが2日連続で25を下回るまで待つことで、売られすぎになるまで待ちます。そして取る予定のポジションの10%で試し買いをします。
多くの場合、ETFがこの水準に達すると、売りばかりが出て買いが消えます。間近に迫った政治や経済に関するイベントに不安があるか、市場不安が引き起こすイベントが実際に起きているためです。
その後、ETFが下げて引け、売られすぎになる日を待ってから、さらに20%分を買います。売りが増えるということは、恐怖レベルが高まっているということ。
そしてETFがさらに下がった日に追加で30%分を買います。この時点で不安は苦痛に変わりつつあります。
そしてETFがさらに下がった場合に追加で40%分を買います。ここまで下がってポジションを増やすことは多くありません。少なくとも1週間売られ続けると、狼狽売りが完了し、これ以上下がりにくくなります。
ポジションを10%しか取っていなくても、100%取っていても、ETFが値上がりして2週間RSIが70を超えて引けたら手仕舞います。この時には市場から恐怖心が消えており、ETFは買値より高い位置にあるはずです。
TPS戦略のようなナンピン買いは通常悪手とされています。しかし、恐怖と強欲を利用するTPS戦略では、データから有効性が確認されました。
市場に恐怖が広がるときに投資家やトレーダーがどういう行動をとるかは簡単に予想ができますし、過去何十年も変わらず繰り返されています。TPS戦略は、この人間の行動原理を利用したトレード手法です。
TPS戦略での空売り
これはTPS戦略をひっくり返したトレード手法です。逆にしても有効な戦略となります。
トレードルール
- 前提:SPY(S&P500ETF)は200日移動平均線を下回っている(=下降トレンドである)※SPYが大引けで200日移動平均線を上回ったときは、どんな場合でも新たに売らない
- SPYの2週間RSIが2日連続で75を上回って引ける日の大引けにSPYを10%売る
- 大引けでSPYが前の仕掛け値よりも上がっていれば、さらにSPYを20%売る
- 大引けでSPYが前の仕掛け値よりも上がっていれば、さらにSPYを30%売る
- 大引けでSPYが前の仕掛け値よりも上がっていれば、さらにSPYを40%売る
- SPYの2週間RSI が30を下回って引けた日に持っているポジションをすべて買い戻す
1993~2017(24年間)のバックデータ
- トレード数:78
- 勝率:82.05%
- 1トレード当たり利益率:1.46%
- 平均保有日数:5.26日
200日移動平均線を下回っている時にETFが上昇すると、恐怖感の解消、機会損失の恐れの高まり、売り方のパニックが発生することがよくあります。これらの恐怖の重なりによってETFが大きく上がります。
これらの恐怖と強欲に引き付けられた投資家の反対側に立つことで、有利な仕掛けができる戦略です。
ただ、暴落の恐怖心よりも暴騰の恐怖心は小さいため、TPS戦略での空売りは通常のTPS戦略よりも効果が小さくなります。
恐怖局面で買って強欲局面で売ることは、恐怖や強欲といった人間心理のバイアスを徹底的に活用した、永遠に機能する戦略です。
これはバフェットの投資信条「他人が強欲になっているときに恐れて、他人が恐れているときに強欲になる」と同じ内容であり、広く知られています。しかし人間の心理的に恐怖局面で買い向かうことには大きな抵抗があります。
それこそが利益を上げる源泉で、恐怖局面で買って強欲局面で売ることができれば大きな利益を得ることができます。
「恐怖で買って、強欲で売る」この本では、RSIやVIXを用いた短期トレード戦略を体系的に説明されています。市場に恐怖が蔓延した状態で株を買って儲ける条件が、データに基づいて紹介されています。
初心者から中級者まで実践的に活用できる内容になっていますので、読んだことがない方は、ぜひ読むことをおすすめします。
恐怖で買って強欲で売る手法が成功しやすい理由
市場心理の逆を突く
多くの投資家は「恐怖で売り、欲望で買う」という行動をとります。つまり、暴落時に「もう無理だ」と投げ売りし、上昇時に「もっと上がる」と飛びつきます。
その結果、安値で売って高値で買いがちで、その逆を突けば利益を得やすいことがわかります。
過剰反応(オーバーシュート)が頻繁に起こる
企業の業績悪化ニュースや世界的ショックがあると、必要以上に売られます。逆にバブル的な上昇局面では、本来の価値以上に買われます。
この行き過ぎ、過剰反応を利用することで、平均回帰的な動きから利益を取りやすいです。
投資家の行動はパターン化している
暴落時 → 出来高急増・売り一色 → 反発が起こりやすい
過熱時 → SNSやニュースで「絶対買い!」と盛り上がる → その後に失速しやすい
過去のリーマンショック、コロナショック後の相場でも同じパターンが繰り返されましたし、将来の暴落でも同じことが再現されるはずです。
感情に支配されにくい投資家が少ない
実際にこの手法を冷静に実行できる人は少ないです。だからこそ、少数派になることで有利に立てます。
バフェットの投資哲学
バフェットは「他人が強欲になっているときに恐れて、他人が恐れているときに強欲になる」と言いました。恐怖で買って強欲で売る手法はこのバフェットの哲学と同じです。
アメリカで刊行された「Updated and Condensed版」を訳出した本です。バークシャー・ハザウェイの会長兼CEOにして、世界で最も尊敬される投資家ウォーレン・バフェット。その知られざる生活、価値観、投資戦略、そして後継者とは? 唯一執筆を許された著者が5年以上を費やした公認伝記。
資産1300億ドルを築いたバフェットの投資哲学をマンガでわかりやすく説明しています。バフェットの投資法の、「長期の目線で投資する」「価格より価値を見る」「いつ売るかは自分で考える」「納得いくまで徹底的に企業を調べる」などを説明しており、本質的で、長期にわたって資産を増やすヒントが多く詰まっています。
投資の神様ウォーレン・バフェットがどんな戦略で投資を行いバークシャーハサウェイを成功へ導いたのか。起業家マインドにフォーカスし明らかにしていく一冊です。
ウォーレン・バフェットの人生を通し投資の哲学と手法を学べます。監修者はバフェットの投資術に共感し、バフェットの動向を追っている日本大学商学部教授 濱本明氏です。バフェットの人生と行動と投資哲学を、現代の投資からみて理解できます。
まとめ
「恐怖で買って強欲で売る」トレード手法は、シンプルですが実施するには心理的な抵抗を伴います。しかし、データに裏付けされた効果的なトレード手法です。
人間の恐怖心が相場を暴落させ、恐怖心がなくなると相場が回復します。この恐怖心は克服できず、また何度も同じパターンで繰り返します。「恐怖で買って強欲で売る」トレード手法が成功しやすい理由は、この繰り返される相場の変動を利用しているためです。
この記事で紹介したトレードルールに従い、市場がパニックの時や熱狂している時に冷静にトレードすれば、一段レベルの高い投資家になれるでしょう。